マジカレード(後編) 〜magicalead〜
著者:shauna


思った通りだった。
前述の通り、シルフィリア自身は精神操作魔法等で自分の脳が他人に干渉されないように反対魔法で常にプロテクトを掛けている。
したがって、簡単には念話なんかできるはずがない。
なのに、今の相手は自分に対しそれを行った。
つまり、そこから相手の状況は2通りに絞られる。
一つは自分より強大な魔力を持ち、自分のプロテクトを跳ねのけた場合。そして、もう一つは念話することを許している身内である場合だ。
そして、ある理由から前半は考えられない。つまり、自動的に後半ということになる。
自分に対し念話を許しているのは極少数だ。
まず、アリエス。次にハルランディア家の当主、そして、グロリアーナ家の当主。数少ない心から信頼できる友人の“リアーネ・メルディアナ”と
“シーブス・キーン”。大マフィアのボス“パルレモ”。後は少し前に出会った読心術者。サーラ・クリスメントと・・・・
この子だけなのだ。
祭りの激しさから少し離れた藪の中。そこにその子は横たわっていた。
「セイミー・・・」
シルフィリアが静かに呟いた。
セイミー。フェルトマリア家の女中頭にして、元は山猫から形を成したシルフィリアの使い魔だ。
いつも底抜けに明るくて、どんな時でも真面目に仕事をこなしている。そんな彼女が・・・・
なんでこんなことに・・・・
藪の中に横たわった彼女の姿は元来の山猫に戻り、体は傷だらけ。いつも元気に走り回っている姿は見る影もなく今はまるで死を迎える寸前の猫の姿・・・・。
「セイミーちゃん・・・」
ジュリオもシルフィリアと同じように呟く。
「シルフィリア様!この子死んじゃうの!ねえ!死んじゃうの!!」
当然セイミーとは一度も面識のないミーティアだが、目の前で動物が死ぬのが嫌なのはどんな人間でも同じだ。特に、彼女ぐらいの年頃の女の子ともなれば・・・
「ねえ!ねえ!」
その衝動は計り知れない。
「落ち着きなさい!」
ジュリオが一喝した。
「この子は使い魔。魔力さえちゃんと供給すれば死ぬことは無いわ・・・・。」
「そうですけど、まずは傷です。」
シルフィリアが宙に手を翳す。
「来い、私の杖よ(アクシオ、ヴァレリー・シルヴァン)!」
瞬間的に掲げた手にあの長く美しい真っ白な杖が現れた。
シルフィリアはすぐにセイミーに手を当てて術を唱える。
「この世に再び具現(あらわ)れし 光を統べる聖なる王よ汝の統べるその大いなる光で我が前に横たわりし者を救いたまえ。」
杖が僅かに光を放つ。
「神の祝福(ラズラ・ヒール)・・・・」
光は優しくセイミーの体を包み込んだ。
次第に傷が消えていく。緩やかに山猫は元気を取り戻していく。
そして・・・。
やがて人の姿へと戻った。ピンと立った柔らかそうな耳。フワフワの髪の毛、スルッと伸びた尻尾。やはり、間違いなくセイミーだった。
術が切れると同時にシルフィリアは彼女に手を当てて魔力の供給を開始する。できるだけ早く。それでいて身体に負担がかからぬよう加減しながら。
やがて、セイミーがうっすらと目を開けた。
「あ・・う・・・」
「セイミー。私が分かりますか・・?」
「ご・・・御主人様。」
神の祝福(ラズラ・ヒール)をかけたとはいえ、魔力が足りない状態では彼女も動けないらしい。ともかく、話を聞くことにする。
「なぜ、このような所に?」
「みんなが・・・みんなが・・・」
涙で晴れた瞼が眠気で落ちそうになるのを我慢しながらセイミーは必死に呟く。
「みんな?何かあったんですか!?」
「急いで戻ってください・・。レウルーラに・・・・」
「わかりました。」
「それからご主人様。」
「何です?」
「何もできなくって・・・ごめんなさい。」
セイミーが目から大粒の涙をこぼす。自分が過小すぎて。自分がみじめで・・。もう一度命を与えてくれたシルフィリアに・・
こんな自分を認めてくれたアリエスに申し訳なくて・・・
そしてそれから・・・
セイミーの全身から力が抜けた。
「え?・・嘘でしょ?・・ねえ、嘘だよね・・・。」
ミーティアが震える声で叫ぶ・・。
「大丈夫。眠っただけよ。」
ジュリオがそれを諌めた。
シルフィリアも安心したように微笑む。しかし、安心している暇などないのだ。すぐに表情に厳しさが戻った。
「ジュリエット。この子をしばらくあなたの店で寝かせてあげてくれませんか?」
「OK任せなさい。大丈夫。うちのお店には女の子に興味無い乙女ばっかりだから!それに、バーテンのシンクちゃんは元医者よ!バッチリ介抱するわ!」
「ミーティアさんは、お城に戻ってアリエス様に伝言してもらえますか?今までに起きたことを出来るだけ詳しく。」
「わかった。任せて。」
「ごめんなさい。」
「え?」
「お祭り・・台無しにしてしまいましたね。」
「気にしないで・・・。」
ミーティアは出来るだけの笑顔でそれに応える。
「さて、それじゃ、あたしも行くわね。」
ジュリオもセイミーを抱き抱え、自分の店のある方向へと歩き出す。
一人残されたシルフィリアもまず、再び「服飾使用精(レディース・メイド)」を呼び出し、いつもの服に着替える。
そして、急いで町の役所へと向かおうと踵を返した。
「シルフィリア様。」
行き掛けにミーティアが大声で問いかける。
「あなたって一体何者?ただの聖蒼貴族ってだけじゃなさそうだけど・・・」
あれだけの魔力を持っているのだ。故にその問いは必然だった。その問いに対し、シルフィリアは
「B-24-188、G-11-1135」
と答える。ミーティアが「え?」と聞き返すと・・
「そこに、私の秘密が書かれてます。」
そう言い残し、シルフィリアは役所の方へと走って行った。



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